PREBLICの今村です。毎週火曜日に書いています。
先日、緊急事態宣言があけたタイミングで友人のお店の移転祝いに呼んでもらいました。
そこに来ていた人の中には1年とか2年ぶりに会う友人や先輩も。
久しぶり過ぎて最初は少しギクシャクしてたんですが、時間とお酒が進むにつれて気づいたら前みたいにいつも通り話していました。
全部の会話は覚えていないんですが、何かの話の流れから”時間は限りがあるね”みたいな話になりました。
たまたまなのか、最近よくそんな話を耳にすることが増えました。自分も友人も先輩も歳を重ねたこともあるとは思いますが、コロナで人と会わなくなった分、自分と向き合う時間が増えたこともそうさせているのかもしれません。
そんな風に限りがあるって分かると、可能な限り楽しい時間で一日を満たしていたいって思うのは自然なことで、退屈なこととか嫌ことは極力避けようと前よりも思うようになりました。
ここまではよく考えるところだと思うけど、好きな時間とか楽しい時間だけで全部を満たすのはやっぱり難しいように思います。
おそらくだけど、これから好きな時間とか楽しいとか居心地が良い時間をできるだけ長く過ごすためには、そこに辿り着くための訓練というか何かしらの行動は必要だと思った。
なんでこんなことを書いたかと言うと、これから書くビスポークのコートを作った時にそれを感じました。
今まで作った中で1番作るのが難しくて、レザーに鋏を入れる前段階からかなり苦しみました。
「ここどうやって縫えばいいんだ...」
「ここは何センチにしたらいいんだ…」
とかそんな時間がものすごく長かった。そこが決まらないと作図がひけないから。
でも完成した瞬間にはっきりわかったことがあった。
完成した瞬間、さっきまでキツかったことが良い記憶に変わってチャラになった。
自分の技術が上がるのをリアルに肌で感じたり、それを見た人がびっくりしてくれたり。この感情は完成して初めて生まれた感情。
楽しいことの中にも多少キツいことがないと、何も産まないのかもってついこの間思いました。
さて完成したのがこちらです。1年以上前から製作していたディアスキンを使用したダッフルコート。このダッフルコートはCLUTCHマガジンの編集長の松島さんのご注文です。
イギリス軍のビンテージ ダッフルコートをお持ちいただき、仕様やディテールを生かしサイズは体型に合わせてディアスキンで製作しました。
<ビンテージのダッフルコート>
元々のオリジナルには裏地は付いていないんですが、身頃には千鳥格子の裏地を。そして、フード部分には表地のディアスキンと同色のネイビーサテンを。
身頃とフード部分の裏地を変えたのは、身頃裏地だと着用したら裏地は見えないんですが、フードは着用していると背中部分で裏地が見えてしまうからです。同色だとシンプルな仕上がりになります。そしてサテンのつるっとした肌触り。
そして、フードの口にはベルトが配されていてボタンで口の大きさを調整できるようになっています。
ここをボタンによってバンドを絞ることでフードの口が閉まり顔の出る面積を小さくして雨風を凌げるというクラシカルなディテール。
何より大変だったのはオリジナルでは付いていない裏地をつけて、さらにオリジナルの縫製やディテールを生かすこと。もっと簡易的に裏地は付けられるんですが、裏地の付け方は、極力ビンテージの縫製や仕様を再現するために一度ディアスキンと裏地を張り合わせ縫い合わせは全てパイピングで仕上げています。表地のディアスキンと裏地も同じ長さにしてしまうと着用していくうちにディアスキンが伸びてしまって裏地が吊られてしまいます。それで裏地には適度なゆとりをいれながら裁断し貼り合わせています。
そこにパイピングを加えています。
特に袖周りのステッチは一周だったので袖付けだけで何時間もかかってしまいました。
袖付けの日の朝は本当に布団から出たくなかった。
ポケットの口の裏にも補強のあて布。
そして、ダッフルコートで最も特徴的なトグルボタン。オリジナルと比べてもシェイプや大きさも申し分ないディテールです。
素材集めから、仕様など考えることが多過ぎて完成までに1年以上を要してしまいました。製作に関してはかなりハードでしたが、職人としてとても大きな経験をさせていただきました。
ありがとうございました!!