PREBLICの今村です。毎週火曜日に書いています。
先日、恩人でもあり、先輩であり、そして元ボスでもあったデレック・ハリスが、2025年6月22日に旅立ちました。
彼との出会いは2009年、ロンドンのLewis Leathersの店舗でした。
当時21歳だった僕は、手作りしたレザージャケットを握りしめてロンドンへ向かい、飛び込みで「働かせてほしい」と店を訪ねました。それが、彼との最初の出会いです。
英語も製作のスキルも不完全な状態で、何を話したかは正直覚えてません。ただ、「掃除でもなんでもやる」「とにかくやる気だけはある」と、ぐちゃぐちゃの英語で熱意だけを必死に伝えた記憶があります。
当時レザー用のミシンなんて高くて買えなかったので、全て手縫いで作りました。今そのレザージャケットを見ると気になるところはたくさんあるんですが、気合いだけは伝えられたのかもしれません。
そんな僕の話を、彼は最後まで紳士に聞いてくれました。
「機会があったら電話するよ」と言ってくれて、その日は店をあとにしました。内心では、もう電話は来ないだろうなと思っていました。
ところが数日後、知らない番号から電話がありました。電話はLewis Leathersからで、「この日のこの時間に店に来てほしい」と。
緊張しながら指定の時間に店へ行くと、「近くのパブに行こう」と言われ、そのままパブへ。そこでビールを飲みながら仕事の話はほとんどせず、世間話をして過ごしました。
そして、不意に
「君のために場所を用意した。いついつから来れる?」
即答で「行きます」と返事した僕は、その日の夜は嬉しくて眠れなかったのを覚えています。
最初の仕事は掃除とお茶出しからでした。イギリスでは昼下がりや夕方にお茶を飲む文化があって、彼はティーバッグをお湯に浸す時間、ミルクの量など、細かく教えてくれました。
ある日、ミルクの量をほんの少し間違えて出したことがあったんですが、一口飲んで、「まずい、これ」と。すぐに気付かれてしまいました。そんな繊細さが、レザージャケットのディテールへのこだわりにもつながっていると、その時に思いました。
店には、アーカイブとして保管されていた大量のヴィンテージレザージャケットがあり、実際にそれらを手にとりながら、彼からたくさんの歴史を教わりました。
僕が彼から学んだ一番大きなことは「姿勢」です。
朝起きてから寝る寸前まで、レザージャケット、パンク、レゲエ、映画についてとにかく探る。それは“探求”というよりも“熱狂”でした。
ワーキングクラス上がりで、どれだけ成功してもルーツを大切にし続けていた彼は、昔から通っている近所のパブに通い、日本に来たときも安い赤提灯の居酒屋に足を運ぶような人でした。
音楽やレザージャケットについて話すときは、いつも真剣な顔で、あつく語ってくれました。
好きなことと生活、そして自分のルーツが一貫している姿勢を間近で見られたことは、僕にとってかけがえのないものになっています。
先月6月上旬にロンドンを訪れたときも、彼は一切の弱さを見せず、いつものように冗談を言って笑い飛ばしてくれました。
「今度こんなの作ろうと思ってるんだけど、見て」と、目を輝かせながら話してくれました。
僕は今、独立してルイスレザーズとは関係がありません。それでも、「最近どう?」「こんな風にやってみたらどう?」と言葉をかけてくれる、あったかい人でした。
そしてその優しさと同じくらい、仕事や好きなことに対しては本当に熱い人でもありました。冗談と真剣さ、レザー、音楽、厳しいけどあたたかい人柄。それらがうまく溶け合って、彼の人格ができていたんだと思います。
彼からもらったたくさんの言葉が、今の僕の身体の中にたくさん残っています。
奥さんのSaayaさん、素晴らしい時間を作ってくれてありがとうございました。
下の写真は最後の出勤日に送別会を開いてくれた時のパブでの写真
どうか安らかに。本当にお世話になりました。
ありがとうございます。
